La chimie crée son objet.

　化学の世界では想像した分子を自らの手で実際に作り上げることができます。もちろん、こうした想像の産物が「何の役に立つのか」は全く分かりません。役に立たないのかもしれません。でも、私は、きっと何か素晴らしい性質を秘めているはずだと信じています。そういう魅力的な分子を「作り」、「分析し」、次第に明らかになってくる諸特性から、それ応じた「機能」を探ってきました。本質的に新しいものを生み出そうとする取り組みです。

　研究は、人間が未だ知らない事柄を見つけだそうとする営みだと捉えていますので、誰も触ったことのない化合物は素晴らしい研究対象です。これまでに、次の二つの方向性で研究を進めてきました。

反応論：医薬は複数の化学反応の組み合わせによって化学合成されていますが、効率的な合成法や反応が知られていないために患者さんには届かない医薬の種がたくさんあります。これを解決するには、新しい化学反応を引き起こす「触媒」の力が必要です。私たちが作り、育てた分子は、実は世界最高レベルの切れ味鋭い触媒として利用されるようになっています。反応機構が大好きな私たちは、複雑な、しかし化学的に妥当な反応過程を組み込あわせた分子のパズルを作り、「え？」っと驚くような分子変換を合理的に開発するという研究も行っています。

構造論：有機化学を学べば、分子構造を式によって書き表せるようになります。しかし、実のところ、分子の「形」をつくり上げる「化学結合」は観測可能な対象ではありません。私たちの分子は、時に「結合しているのか？それとも、していないのか？」という結合論の限界に関する問題を提示してきます。NMR や IR、単結晶 X 線回折といった実験と理論的な量子化学計算、そして時に科学哲学までも総動員して分子の「形」と現代的な化学結合論を模索する研究を進めています。

 C'est en forgeant qu'on devient forgeron.

 　研究室の皆さんには，「（他人に誇れる）自慢の分子を見つけだして下さい」と話しています。新しい化学現象を見つけることは決して簡単なことではありませんので、試行錯誤を避けては通れません。ましてや、誰も知らない現象を見つけようというのですから、毎日、フラスコと化合物に向き合い、仮説の検証を繰り返すという「努力」が絶対に必要です。幸運は大切ですが、それは日々の積み重ねの上に必然として落ちてくるものではないでしょうか。同時に勉強も続けていかなければなりません。「何が知られているのか」を知らなければ、「発見」に気づくことができないのです。

　私たちの研究活動に興味をもつ方は、遠慮なく研究室の扉を叩いてください。有機化学に限らない広範囲に亘る学識をもって、発見に挑む知的な遊びを共に楽しみたいと思っています。

【職歴】 

　2005年4月 - 2008年7月　　東京薬科大学 薬学部 助手

　2008年9月 - 2014年6月　　東京薬科大学 薬学部 助教（昇任）

　2014年7月 - 2016年3月　　東京薬科大学 薬学部 講師

　2016年4月 - 現在　　　　　東京薬科大学 薬学部 准教授

　2013年4月 - 現在　　　　　東京農工大学 工学部 非常勤講師

　2013年10月 - 2013年12月　フランス リヨン第1大学 CNRS客員研究員

　2018年9月 - 2018年10月　  フランス カーン・ノルマンディー大学 招聘教授

【代表的な論文】

• A Fluorinated Carbanionic Substituent for Improving Water Solubility and Lipophilicity of Fluorescent Dyes
  Angew. Chem. Int. Ed. 2021, 60, 5168.
• Chemical Bonding in Polarised Push-pull Ethylenes
  Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58, 8839.
• 2-(Pyridinium-1-yl)-1,1-bis((perfluoroalkyl)sulfonyl)ethan-1-ide: A Practical Reagent for Synthesis of Strongly Acidic 1,1-Bis((perfluoroalkyl)sulfonyl)alkanes
  Chem. Eur. J. 2017, 23, 10091.
• Synthesis, Characterization, and Applications of Zwitterions Containing a Carbanion Moiety
  Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 1560.
• Tetrakis(trifluoromethanesulfonyl)propane: Highly Effective Brønsted Acid Catalyst for Vinylogous Mukaiyama-Michael Reaction of α,β-Enones with Silyloxyfurans
  Chem. Commun. 2008, 2385.
  

• 2015年3月　日本薬学会 奨励賞
• 2013年12月  有機合成化学協会 三菱ガス化学 研究企画賞
• 2012年3月　東京薬科大学 吉田仲子記念賞（研究賞）
• 2010年2月　財団法人 乙卯研究所 第2回 フッ素化学研究奨励賞